与那国島3日目、明日には島を離れてしまう、相変わらずミミシの手掛かりはない。
昨日、島内ぐるぐるをしたせいで何となくどこか他に行くところはあるのかな、、という感じであった。
朝、宿で話をしていると来年(2026年)は公共事業が多いので工事などの関係者の来島が多く、それでなくても少ない宿や食事の供給が足りなくなるかもしれないという話があった。200人が入れるシェルターの工事などもあるらしい。島民全員が入れる規模のシェルターかと思ったら規模が200人ということで地元では微妙な空気感らしい、、、また自衛隊員が200人以上いるので選挙の時なんかは自衛隊を味方につけた方が有利だといった話も出ていた。もし自分が与那国島を攻める側の司令官であったら自衛官が選挙に行っている例えば町長選挙の日なんかに攻撃しろと言うかもしれないなどと妄想した、、、
とはいえ貴重な与那国島での一日、何もしないわけにはいかない。
まずは少し気になっていた与那国の歴史や文化を紹介するDiDi 与那国交流館に行ってみることにした。ちなみにWEBページを見るとDiDi(でぃーでぃー)の「でぃー」は、「行く」という意味らしい。
行ってみると歴史に関する展示や書籍が多く展示されていた。特に台湾との関係が深かったことがわかる展示となっていた。DiDi 与那国交流館に島内の御嶽などの位置と名前を示すパネルがあった。


DiDi 与那国交流館にある御嶽の説明掲示
ここに紹介されている御嶽・トゥニ・ビディリとはそもそも何なのか?それらに違いはあるのだろうか?
御嶽(うがん)は南西諸島一帯にある拝所、世界遺産になっている斎場御嶽(せーふぁーうたき)など有名、分かりにくいのはトゥニとビディリ、、
トゥニ(刀根)は、毎年行われるマチリという行事で祭事の場所となる拝所、トゥニには宗家や本家といった意味があるとのこと。
ビディリは霊石信仰で他の沖縄の島ではビジュルともいわれる屋敷神、田畑の神、牧畜の神などを表すようだ。
参照:大城學の『与那国島の祭場と儀礼(1989)』
聖地の類は全部見てみたい気はするが、さすがに全部の拝所を訪ねることは難しそうだ。今回はミミシという岩のことを知りたくて与那国島に来た。地元の方に聞いているとミミシがあるのは島民であればおそらく認識しているが、そこを訪ねたり、なにか祭祀のために行くということはしていないとのことだった。
次の展開が見えない。
昨日東崎(あがりざき)に行ったときに、岬の灯台の方へ通じる道の他に、その道から左手に分かれていく道があった。何となく気になっていた。あそこに行ってみるか、、
急でくねくねの坂道を降りていくとだれ一人といない空間が広がる、、何か映画のロケ地にでもなりそうな自然が広がっている。ここはガイドブックに載っていない絶景のビューポイント、、
- 東崎のアリシ
- アリシから見る水平線
東崎の荒々しい岬の崖とその横には水平線が広がる壮大な景色、、与那国馬もいた。
降りてきた坂道を戻るときは車のトルクがもっと欲しいと切に感じた、ローで踏ん張って少しづつ勢いをつけて登っていく。
さて、次はどこへ、、
たしかサンニヌ台や立神岩の並ぶ海岸沿いに人面石があると聞いていた。ネットの情報ではわかりづらい場所であると書いているものもあった。この猛暑の中ジャングルの中をさまようのは少しためらわれる。珍しいといっても普通にネットには情報が出てくる岩、、どうするか、、、ほかに行くところも思いつかない、、話のネタに行ってみるか、、、
道路沿いに入り口を探す。
あっさりと人面石の入り口を示す案内板を見つけた。少し拍子抜けした、、、

人面石展望台の表示、人面石の入口
車を止め案内板の道に進んでいく。
しばらく歩くと軽トラックが一台とまっているのが見えた。中に人がいる。声をかけ人面石の行き方を確認する。途中道が分かれるところがあるが、そこを右に道に沿って進むようにとのことであった。しばらく歩くと二手に分かれる場所に出た、いわれた通りに右に進む。だんだんと道幅が狭くなり植生が野性味を増していく。道がほぼ90度右に曲がっている場所があった。分かれ道ではないのでそのまま道沿いに進んでいく、しばらく行くと左手に人面石と書いた小さいプレートが地面に転がっていた。

人面石の表示
そのプレートの左奥にそれはあった。

人面石
周りの草は、最近刈られたようだ。
なかなかどの角度から見ると人面なのかは難しいが、なんだかひょうきんにも見える岩であった。
話のネタにはなるかな、、、
帰りは暑さでへとへとになりながら先ほど二股に分かれていた道の反対の方にも行ってみた。人面石展望台という見晴らしの良い場所であった。何か構造物(東屋か?)の跡のようなものもあった。
海を見渡すと立神も見えた。
さらに車に戻るため道を引き返すと軽トラックの近くで先ほどの方が草刈りをしていた。無事に人面石が見れたことへのお礼を言おうとして近づいて声をかけるが、草刈り機の音がうるさくさらにその方が草の方を見ているので私の存在に気付いてもらえない。あまり近づきすぎて小石でも飛んで来たら痛そうだなどと思いながら少しずつ近づき声を大きくしていく、、、やっと気づいてくれた。
草刈り機を持ったままスイッチを切らずに会話が始まる。
人面石に無事たどり着けたこと、そしてこのような岩は他にはないのか聞いてみた。
人面石のところの草は最近刈ったとのこと、どうりで見つけやすかったわけだ。そしてアラカワの方にもいろいろあるみたいだけど道もないようなところであるとのこと、、
さらにミミシにも行ってみたいと伝えるとそれなら〇△さんに聞いてみたらよいとある方の名前を教えてくれた。教えてくれたのはよいがエンジンがうるさく尚且つあまり聞きなれない名前であったためよくわからない、6回ほど聞き直した。
草刈り機の調子が悪く一回スイッチを切ってしまうとなかなかモーターが動かないので、、、と草刈り機を止めない理由を教えてくれた。そしてポケットから携帯を取り出すと、連絡先一覧から「この人」と、ひとりの名前を教えてくれた。今日石垣から帰ってくると聞いているから連絡してみるとよいとのことであった。
ついにミミシへの行きかたを知っているであろう地元の方と接点ができた。お礼を言い車に乗ってスマホの電波の良い場所を探した。
おそるおそる電話をかけ事情を話すと、その方は「サイコー」といった。
うん?サイコーってもしかして再考?さすがにそれはないだろう最高に違いない、こちらも最高だ!
待ち合わせをしてお宅にお邪魔した。
石垣に行っていたのは歯医者に行くためであったとのこと。
そこからいろいろお話を聞くことになる。
ミミシのことだけでは収まらない驚くべき話の数々。
仮にその方をAさんとしよう。
Aさんの家系は与那国島をつくった神の直系子孫であると伝えられていると語った。
いきなり超ド級の話がでてきた、、、
そしてミミシのある久部良岳の話を始めた。
テーブルの上にあった封筒の裏に次のような図を描き始めた。
他の島から与那国島にやってきた神事を行うユタのような人が、まず最初に拝する場所が久部良岳の上にはある。図はそれを表していると言う。
この図の形は、どこかで見たことがある!

それは与那国島初日に、最初に行った久部良岳頂上の弧を描いている拝所の石であった。とがっている石が特徴的だと思っていた。
右からそれぞれ月、太陽、A家、山を表しているとのこと、、とがっている石はどうやら太陽を表しているようだ。
私も実はこの島にやってきて最初にこの拝所を訪れたことを伝えるとAさんはにっこり微笑んだ。
そして次にミミシの3つの岩を描きその岩の下の部分を線でつないだ。

ミミシの図
このミミシは3神を表していると同時に「山」という意味をも含んでいると話した。
確かに漢字の山という字に似ている。
そして3神が山であるということは、「ヤマ」を語幹に持つ単語の含んでいる意味を表してもいるとのことであった。
ということは大和や邪馬台国のヤマという語幹には3神の意味があるということか?
妄想が広がっていく、、
玉依姫と神武天皇は比川のカタブル浜から出ていったのよ。
カタブル浜と言えば昨日車を降りて立ち寄ったけれどどこか近づきがたい雰囲気を感じたあの場所だ。
Aさんは続けて、あの辺りは地元の言葉で「んでむら」と言って「出ていった」という意味の地名なのよと言った。「んでむら」の最初の「ん」は、小さい「ん」と言えばよいのか、何か鼻にかかったような曖昧な音であるように聞こえた。今朝行ったDiDi 与那国交流館にのDiDi(でぃーでぃー)の「でぃー」は、「行く」という意味であると紹介されていた。ということは「んでぃー」が出るまたは行くという意味になるのか、、よく「どっかへ行け」というニュアンスで「いねっ!」という表現をすることがあるが、これに近いのかもしれないなどとも思った。
神武東征の出発地が与那国島、、なかなか話がディープになってきた。
さらに島内には石のサークルや顔の形の岩、蛇をかたどった岩など数々の遺構があるとのこと、、そしてそれらの岩にはコンクリートのようなもので塗り固められているような場所もある、また財宝が隠されている場所もある!!と、話がどんどん膨らんでいく。
そしてAさんの家には代々伝わる神器がいくつかある。
そのなかには飾りのついた櫛、そして海の神である綿津見(わだつみ)の神を表す舟形の杯があるとのこと。
写真を見せてくれた。
それらの神器はAさんの現在のお住まいの中にあるのではなく別の場所に保管されているようだ。
Aさんは、『与那国のそんな遺跡を見ていると恐ろしくなる時があるよ。』と語った。
そして12月にあるマチリという行事は、最高の神の行事なのよとも言った。
石のサークルや数々の岩、そしてミミシを見てみたい。
Aさんは場所がわかっている。しかし明日の午前中の飛行機で島を離れなければならない。
ぜひ次回島に来たときはそれらの場所に連れて行ってほしいとお願いをしてお宅を失礼した。
かなり頭の中が飽和状態だ。
日没にはまだ早いが日本最西端の地、西崎(いりざき)に立ち寄り、そして宿に戻る途中でミミシを幹線道路沿いから見た。
翌朝は、祖納港に行ってみた。誰もいなかった。
- 祖納港旅客ターミナル

祖納港
レンタカーを返却し、レンタカー店の方に与那国空港に送ってもらった。
ミミシから始まった与那国島旅行は、最後にAさんと出会い予想以上の広がりを見せた。
今のところは話だけだ。
遺構の数々に行って、この目で実際に見てみたいという気持ちが残った、、
2025年7月、『南嶋奇譚・ガイドブックに載っていない与那国島』シーズン1終了。
2025年10月、シーズン2『南嶋奇譚Ⅱ・ガイドブックに載っていない与那国島』
連載開始をお楽しみに、、
近日連載スタート・・南嶋奇譚 ガイドブックに載っていない与那国島
久部良岳にやってきた(南嶋奇譚・ガイドブックに載っていない与那国島2)
久部良から祖納へ(南嶋奇譚・ガイドブックに載っていない与那国島3)
島内ぐるぐる(南嶋奇譚・ガイドブックに載っていない与那国島5)





